櫻井よしこ オフィシャルサイト https://yoshiko-sakurai.jp/

櫻井よしこ オフィシャルサイト

  • 日本語
  • English
  • 小
  • 中
  • 大
  • Facebook
  • Twitter
  • ホーム
  • お知らせ
  • コラム
  • 著作一覧
  • プロフィール
  • お問い合わせ

コラム

  • 「コラム」の一覧を見る
2006.08.24 (木)

「 国益を賭けて果たせ、15日参拝 」

『週刊新潮』 '06年8月17・24日号
日本ルネッサンス 第227回

8月4日、安倍晋三官房長官が今年4月15日に靖国神社を参拝していたことが報じられると、多くの新聞が、これで靖国神社問題が9月の自民党総裁選挙の争点になるのは避けられなくなったと分析した。とりわけ私の目を引いたのは『朝日新聞』だった。

朝日は5日付の朝刊1面で「苦肉の隠密参拝」とし、2面の「時時刻刻」で、安倍氏は「アジア外交の立て直しという難題に直面する」と批判した。

社説は、「これでは解決にならない」と題して、「口をつぐんで済まされる問題ではない」「首相になれば、靖国神社に参拝するかどうかが常に問題であり続ける可能性が大きい」「是非をめぐって国内の世論は分裂し、中国や韓国などとの外交的な行き詰まりは続く」と批判した。

安倍官房長官が4月の例大祭を前に参拝し、同情報が3か月以上も経たこの時期に伝わってきた、或いは伝えられてきたのは、どうみても安倍氏側の戦略の勝利である。たしかに、朝日新聞などが主張するように「きちんと考えを語」り堂々と参拝するのが良いだろう。しかし、現実を見据えなければならない立場、とりわけ次期首相の地位に最も近い政治家として、今回の行動は、本来、総裁選挙の争点になるべきではない靖国問題に自分の信念を貫く形で対処し、同時に参拝反対の勢力に利用されないための、いわば考え抜いた大人の行動である。

朝日社説子は靖国神社参拝の是非を巡って国内の世論が分裂する、中韓両国との外交関係の行き詰まりが続くと憂えている。だが世論の分裂は常のことだ。大事なことは、事実に基づいて冷静な議論を重ねる知性を失わないことだ。

そして外交問題に関しては朝日の期待は裏切られた形だ。今回の中国政府の反応は非常に注意して見る必要がある。中国外務省は日本のメディアの問い合わせに答えて「日本のリーダーがA級戦犯が祀られた靖国神社参拝を停止することを望む」という談話を発表したのみである。

つくられた「靖国問題」

右の談話には、これまで中国政府が繰り返してきた口汚い罵りも、誇大な感情表現もない。さらに安倍氏への直接的な言及も非難もない。日中関係のこれまでを注意深く観察し、その延長線上に今回の淡々とした談話を置いてみると、中国政府は明らかに、靖国神社参拝をこれ以上問題にしたくないと考えていると判断してよいだろう。

中国政府の対日政策は2003年の胡錦濤政権誕生以来、対日宥和と反日の間で揺れてきた。いずれの方向に傾くかは、国内権力闘争が大きな要因となってきた。

中国政府がいま、対日宥和策に傾いているとは、まだ到底、言えない。だが確かなことは、今回の安倍氏参拝を殊更大問題にしようという気は中国側にはないと見てよいことだ。朝日の社説子は大いに落胆するだろうが、靖国神社問題について中国は元々、こだわってはいなかった。靖国神社もA級戦犯も、中国にとっては痛くも痒くもない問題だったことに、私たちは思いを至すべきだ。

当欄で度々指摘してきたことだが、記憶の確認のために改めて述べておく。靖国神社へのA級戦犯の合祀は1978年秋に行われた。新聞に大きく報じられたのは79年4月、春の例大祭の前である。大平正芳首相は同年の春と秋の例大祭にお参りし、その年の12月に中国を訪問、大歓迎された。日中両国の共同新聞発表は、中国が日本の技術、経済援助にいかに感謝し、熱烈に日中友好を歓迎しているかを示す表現で溢れている。

79年5月に時事通信の取材に応じた、当時の中国の最高実力者である鄧小平副総理も、靖国神社にもA級戦犯にも一言も触れてはいない。鄧小平が力説したのはソ連の軍事的脅威の増大である。鄧小平は当時、日本がソ連から北方四島を取り戻すのであれば中国は日本を支援するとさえ語っている。

ソ連の脅威を強調する余り、中国が、日本は軍事大国になるべきだと日本の背中を押し続けたことも忘れてはならない。1980年4月末に訪中した中曽根康弘氏に対して、中国人民解放軍のナンバー2、副参謀総長の伍修権は、日本の軍事費はGNPの1%にとどまらず、2%にふやすべきだと具体的数字をあげて語った。軍事費を2倍にして軍事大国になれと、当時の中国は日本に言い続けたのだ。彼らにとってA級戦犯合祀や靖国神社参拝は、全く、何の問題でもなかったのだ。

A級戦犯合祀が公になってから6年半がすぎた85年9月、周知のように中国は突然、靖国神社参拝は許し難いと言い始めた。

こうした経緯を振り返れば、朝日の「外交的な行き詰まり」という嘆きは、自作自演の醜悪な独り善がりに聞こえる。外交的行き詰まりを煽っているのはむしろ朝日ではないか。

朝日は日本の新聞ではない

それにしても、朝日は日本の新聞だろうか。否、それ以前に、そもそも、新聞としての機能を果たしているのか。

安倍氏の靖国神社参拝が報じられた翌日、各紙は中国が東シナ海の天然ガス田のひとつ、白樺(中国名・春暁)を中国国家発展改革委員会の張国宝副主任が7月23日に視察していたというニュースを報じた。全国紙のなかでただ一紙、8月7日朝刊現在に至るまで、同ニュースを全く報じていないのが朝日である。白樺ガス田は海底で日本側のガス田とつながると見られており、白樺での生産開始は日本の天然ガスを中国が不法に奪うことを意味する。

日本は領土領海を守るために中国の不法行為に大いに抗議しなければならず、メディアには出来るだけ多くの情報を国民に提供する責任がある。同件を全く報じない朝日は、報道機関としての責任を果たしていないと言われても仕方がない。

日本叩きに通ずる靖国問題を、1面2面、社説を使って大きく報じても、中国の過去と現在の靖国神社問題についての豹変振りを伝えないとしたら、加えて中国が真正面から非難されるべき東シナ海のガス田開発について報じないとしたら、朝日の報道は偏っており、もはやまともな日本の新聞とは呼べないだろう。

日本人、とりわけ日本国の首相である小泉純一郎氏がいま、重視すべきことは、靖国参拝問題がもたらす政治的意味である。中国が日本をその影響下に置き、屈服させる手段として靖国神社問題をもち出したのは一連の経緯から明らかだ。だからこそ、日本国の首相としては、そのような中国側の意図を断固拒否しなければならないのだ。そのために、靖国参拝は今年こそ、きちんとした形で行わなければならない。日中の対等かつ健全な外交の突破口もそこから開けていくと確信し、8月15日、堂々と年来の公約を果たすのがよい。

Tweet
トラックバックURL:

トラックバック: 16件

  1. 日経新聞

    小泉首相の靖国参拝について「産経新聞」以外の各紙は批判的だったことでしょう。 たまたま8/16は北海道から東京に戻る飛行機の中で日経新聞を読んだのですが、…

    トラックバック by いい国創ろう○○政権―縦の民主主義を大切にしよう — 2006年08月24日  14:02

  2. 麻生さん自民総裁選出馬表明&靖国参拝問題の私見

    麻生外相が自民総裁選出馬表明、政策減税による経済成長に力点 2006年08月21日18時55分 朝日新聞 >また、減税財源に関連して、経済成長によってど…

    トラックバック by 自望自気 — 2006年08月24日  16:49

  3. 思考の練習帳(靖国問題をめぐって)

    今回は、論壇誌「Voice」平成18年9月号より、長谷川三千子さんの論文を引用します。少し長い文章ですが、富田メモについて、戦争の見方について、東京裁判に…

    トラックバック by 新・へっぽこ時事放談 — 2006年08月24日  17:40

  4. 傲慢なる「ロシア」について(一)

     樺太の南半分を含め、これらの北方4島はわが国の領土である。玉音が発せられた8月15日以降に、ソ連(当時)による不法な軍事侵攻によって不法占領されたわが国…

    トラックバック by 博士の独り言 — 2006年08月24日  18:17

  5. 「東京裁判史観一考」(1/3)朝日毎日の両新聞によって歪曲して伝えられた「報道≒史観」あり

     今日の我々日本人を誤った認識に導き、誤りを国民の常識として刷り込み、21世紀の日本人に必要な正しき歴史認識と歴史事実の判断を惑わせ躊躇させているのは、戦…

    トラックバック by エセ男爵酔狂記 Part-II — 2006年08月24日  19:25

  6. 【コピペ】恐るべき朝日新聞の真実

    朝日を読むと、反日が生きがいになる。
    中国、北朝鮮、韓国の工作員としか思えない言動の数々。

    ●朝日新聞社の場合 ―今までなにを報じてきたのか―
    ht…

    トラックバック by 【時事とコピペ】 — 2006年08月24日  21:44

  7. 金政権・滅亡への階段 2

     自崩壊か、攻撃か。果たして、金政権がどのような結末にいたるのか、緊張の中にも、一つの歴史の教訓をわが国は目の当たりにしょうとしている。現実的な国策は、憲…

    トラックバック by 博士の独り言 — 2006年08月25日  19:13

  8. 続「東京裁判史観一考」(2/6)徳富蘇峰先生の歴史観から東京裁判検察側の起訴状を解せば・・

     今や、靖国参拝問題は、空騒ぎする中韓からの文句や注文から如何に言い逃れするか?を、云々する?そんな暢気な事態ではない。ひとえに、日本に生を受けた我々日本…

    トラックバック by エセ男爵酔狂記 Part-II — 2006年08月27日  14:51

  9. 「遊就館から未熟な反米史観を廃せ」と妄言を吐く親米保守

     8月24日の産経新聞正論欄に岡崎久彦氏の「遊就館から未熟な反米史観を廃せ」という論文が掲載されました。

    http://www.sankei.co….

    トラックバック by なめ猫♪ — 2006年08月29日  00:22

  10. 渡嘉敷島集団自決、軍命令を否定する証言ー元琉球政府の照屋昇雄さん

    ■渡嘉敷島集団自決、軍命令を否定する証言 元琉球政府の照屋昇雄さん
    産経新聞(平成18年8月27日)

    第二次大戦末期(昭和20年)の沖縄戦の際、渡…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年08月29日  16:07

  11. 渡嘉敷島集団自決、軍命令を否定する証言ー元琉球政府の照屋昇雄さん

    ■渡嘉敷島集団自決、軍命令を否定する証言 元琉球政府の照屋昇雄さん
    産経新聞(平成18年8月27日)

    第二次大戦末期(昭和20年)の沖縄戦の際、渡…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年08月29日  16:07

  12. 北朝鮮という「唇」を愛する中共

     北京入り(27日から)していた拉致被害者のご家族にとっては、さぞ無念であられたに違いない。28日夜に報じられた土壇場キャンセル。まさに常軌を逸している。…

    トラックバック by 博士の独り言 — 2006年08月29日  21:19

  13. 中国人の政府関係者は毛沢東の墓を参拝してはいけない

    中国や韓国が靖国神社への参拝に反対していますが、これがどんなに内政干渉であるか立場を代えてみると良く分かると思います。

    日本の首相が靖国神社を参拝す…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年08月30日  10:00

  14. 中国人の政府関係者は毛沢東の墓を参拝してはいけない

    中国や韓国が靖国神社への参拝に反対していますが、これがどんなに内政干渉であるか立場を代えてみると良く分かると思います。

    日本の首相が靖国神社を参拝す…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年08月30日  10:00

  15. これで調査ですか、外務省殿?

     「日中ほぼ横並びに 外務省の対日世論調査」との新聞報道があった。この調査の概要は、外務省ホームページ「米国における対日世論調査(概要)」に記されているが…

    トラックバック by 博士の独り言 — 2006年08月30日  22:53

  16. Vicodin.

    Where to order vicodin with no prescription. Vicodin withdrawl. Vicodin. Symp…

    トラックバック by Vicodin. — 2007年05月14日  19:08

櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 国益を賭けて果たせ、15日参拝 」

新着記事

  • 2025年5月8日
    「 自民党再生へ、萩生田氏の決意 」
  • 2025年4月24日
    「 中国の覇権に連合体制で対応せよ 」
  • 2025年4月17日
    「 中国に屈服する石破・岩屋外交 」
  • 2025年4月10日
    「 米国の後退、戦略3文書を見直せ 」
  • 2025年4月3日
    「 習氏の檄、台湾侵攻の「戦備強化」 」

記事フィルタ

カテゴリ
月別アーカイブ

  •  ・番組出演のお知らせ(2025年3月20日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2025年1月8日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2024年12月24日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2024年10月1日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2024年9月9日)

新刊のご案内

暴虐国家
暴虐国家
異形の敵 中国
異形の敵 中国

  • 国家基本問題研究所 - jinf
  • 櫻井よしこ 公式Facebook
  • 櫻井よしこ 公式Twitter
このページのトップへ
creative comons

このサイトに掲載されているコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。

Copyright © 2025 Ascent Co.,Ltd. All Rights Reserved.